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47話 シキタリとの出会い

last update Huling Na-update: 2025-07-11 08:00:00

 47話 シキタリとの出会い

 家族の代わりに用意された人の所へと向かっている。親父の部下から説明されると、どうやらそこに変声機をメンテナンスする職人もそこに呼んでいるようだった。どんなふうに話を進めていけばいいのか、緊張感が全身を包んでいく。初めての経験に不安になっている薫がいる。

「大丈夫ですよ。皆、協力者ですから」

 気を利かせてくれたようで、優しく落ち着くように諭されると、ふうと深呼吸をし、整えていく。

「ありがとう」

「いえいえ。まだ時間がかかりますから仮眠をとってはいかがでしょう。伊月様の近くにいて、神経を使いすぎているのではないですか?」

 以前、親父が用意した車に乗っていた人達は、どちらかと言うと無愛想だったが、今回は柔らかすぎる程、丁寧だ。何かあったとしても、手厚いサポートがあるのなら、と思いながら、言葉に甘える事にする。

「着いたら、起こしますね。おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 この人達に慣れてきた事で、ここまで気を抜ける環境になってきた。自分の当たり前や日常がどこか遠くに隠れ、価値観に変化が訪れていたのだった。

 車のエンジン音が子守唄のように聞こえてくる。車内に広がる振動も、まるでゆりかごを連想させていく。うつらうつらとぼんやり景色を見ていた薫の瞼が徐々に閉じられて行った。

 ◻︎◻︎◻︎◻︎

 薫が外出をしている間、伊月はお留守番をする事になった。また一人で時間を潰すのかと思うと、憂鬱になってしまう。見えてきた情報を整理するには、丁度いいのかもしれないが、考える事が多すぎて、疲れているのが現状だった。ふう、と息を漏らすと、雪崩れるようにベッドに転がっていく。

 天井を見ていると、何も模様はないはずなのに、繊維の欠片が形を想像し、一つの絵として完成していく。人間の視界は不思議なものを見せてくれる時がある。子供の頃から、悩みを抱えている時に起こる現象の一つだった。一点を見つめていると、違う世界へ入り込んでいく自分がいた。そこは沢山の模様に彩られた不思議な世界。この現実のように、考え事も、悩みもな
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